はじめに
近年では、正社員として会社に勤めお給料をもらいながら、休みの日の空いた時間で個人で仕事をして収入を得る、いわゆる副業をされる方が増えてきているかと思います。
会社側でも副業を認めるケースも増えており、副業の収入についての確定申告をどうすればいいのか悩まれているサラリーマンの方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?
以前の記事(「事業所得が赤字になったら税金が戻ってくる?」)で、以下のようなことをご紹介しました。
- 給与所得と事業所得がある場合で、事業所得が赤字の場合は損益通算できる
- ただし、事業所得なのか雑所得なのかの判定はグレーゾーンで、雑所得の認定されてしまうこともある
そこで、今回は、副業されているサラリーマンの方がお悩みになる点の一つである、この事業所得と雑所得の違いについて簡単に見ていきたいと思います。
事業所得と雑所得の違いってなに?
事業所得と雑所得は、それぞれ以下のような所得を指します。
- 事業所得・・・事業所得を生ずべき事業による所得
- 雑所得・・・他の所得(事業所得等他の9種類の所得)に含まれない所得
これだけでは何を言っているかよく分かりませんが、要するに、「事業」として認められる活動で得た所得は事業所得になり、それ以外は「雑所得」となりますよ、ということです。
以前の記事でもご紹介した通り、事業所得と認められず、雑所得と認定された場合は、損益通算が認められないといったデメリットのほか、青色申告特別控除や、少額減価償却資産の特例も受けられないなど、その取扱いには大きな差が出てしまいますので、 「事業」として認められる活動であるかどうかを判断することは確定申告をするにあたってとても重要です。
では、 どんな活動が「事業」として認められるのでしょうか?
実は、どういった事業が「事業所得を生ずべき事業」に該当するのか、法律や法令では細かく規定されていません。とはいえ、判断をするにあたって何も指針がないと困ってしまいますが、この「事業所得」かどうか、という争点に関して過去に裁判所が判断をした事例があります。
所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される。
最判昭和56年4月24日
……ある経済的行為が「対価を得て継続的に行う事業」に該当するか否かは、当該経済的行為の営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問題とされるべきであり、この観点からは、当該経済的行為の種類、自己の役割、人的・物的設備の有無、資金の調達方法、費やした精神的・肉体的労力の程度、その者の職業・社会的地位などの諸点を検討する必要がある。
裁決事例集No.79 – 平成22年2月16日裁決
そして、一定の経済的行為が反復・継続して行われることによって事業として社会的客観性が認められるためには、相当程度安定した収益を得られる可能性がなければならないと解するのが相当である。
上記の他の事例も総合的に勘案すると、裁判において「事業所得」かどうかの判定するにあたっては、以下のような点を考慮されていることが分かります。
営利性・有償性の有無 | 何らかの対価として収益を得られるか |
---|---|
継続性・反復性の有無 | 継続して繰り返し収益を得られるか |
企画遂行性の有無 | 計画的に収益を得られるよう営まれているか |
人的・物的設備の有無 | 従業員や機材などが備えられているか |
資金の調達方法 | 相応のリスクを伴って資金を調達しているか |
精神的・肉体的疲労の程度 | 精神的・肉体的に相応の労力を投じているか |
その者の職業・生活状況 | 収入状況などから、事業としての合理性が認められるか |
とはいえ、こうしたポイントにも明確な基準があるわけでもありませんし、いくつポイントを満たせばよい、などというルールもありませんので、実際には、個々の状況にしたがって、上記のような検討ポイントについて総合的に勘案されたうえで判断がなされます。
抽象的な話が続きましたので、以下では、実際に裁判で事業所得として認められず雑所得と判断された比較的最近の事例をご紹介します。
事業活動として認められなかった事例
会社に勤務する納税者が、ネイルサロンを開業した。自宅のリビングの一部に作業用の机1台及び椅子2脚などを設置し、看板及び本件業務に係るメニュー表を作成して、配偶者を使用人としていたが当該ネイルサロンに係る所得を事業所得として申告したところ、税務署長から当該所得は雑所得に該当するとして更正された。
「平成30年2月20日裁決」(TAINS F0-1-900)
会社員が自宅でネイルサロンを開業したケースですが、事業所得として認められなかった事例です。具体的には、上記で紹介したポイントについてどのように判断されたのでしょうか?
①営利性・有償性の有無
多額の損失が3年連続して生じていることからすると、著しく経済的合理性に欠けるものであり、営利性は乏しい。②企画遂行性の有無
積極的な広告宣伝がなく収支の赤字を改善する手段を講じていない。
売上を増大させるための事業計画の策定などを行っていない。③精神的・肉体的疲労の程度
勤務先における管理職という責任ある地位にて週5日、1日7時間30分程度従事しており、精神的及び肉体的労力の大半が勤務先の業務に費やされ、本件業務に費やすことができた精神的および肉体的労力は、勤務先における業務に支障を来たさない程度を範囲であった。
④その他の職業・生活状況
勤務先から安定した給与を得ており、当該収入が各年分における所得の大部分を占め、納税者及び本件配偶者の生活の資とされた。
上記の通り、いくつかのポイントについて、事業活動とは認められないと判断され、結果としては雑所得として認定されています。
他にも、「事業所得」か「雑所得」か?を争った裁判はありますが、やはり上記のポイントを総合的に判断し、結果としては「雑所得」と認定されています。
このような裁判例を考慮すると、正社員で会社員をしている方が休みの日に行う副業を事業所得として確定申告すること(特に赤字の場合)にはなかなか高いハードルがあるように感じます。
もちろん裁判例が全てではないですし、冒頭で見た通り事業活動が何か?ということが法律等で明確に規定されているわけではないため、その取引の内容から自動的に決まるのではなく、あくまで個々のケースについて、その具体的な事案の諸要素を総合して勘案し、社会通念に従って事業かどうかを決めるということになります。
まとめ
- 副業で得た所得については基本的に確定申告をする必要がある
- 副業で得た所得は「事業所得」か「雑所得」に分類されるケースが多い
- 「事業所得」か「雑所得」かについては法律・法令において明確な判断基準がない
- 過去の裁判の判断事例においては、営利性・有償性、継続反復性、企画遂行性等々のポイントに従って判断がなされた
- 裁判事例を考慮すると、正社員のサラリーマンが副業で得た所得を事業所得として申告するには高いハードルがある
- ただし、個々のケースの実態を総合的に勘案して慎重に判断する必要がある
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